Episode 8

どんな自分も抱きしめながら

僕には昔から、人よりも抜けているところがあった。
学校生活で言えば、忘れ物が多い子どもだった。
給食当番が着る白衣のアイロンをかけ忘れたり、給食の時に敷くランチョンマットを忘れたりすることが日常茶飯事だった。
特に毎週月曜日に持っていかなくてはいけないランチョンマットに至っては、毎週のように忘れていた。
そんなポカをするたびに自分を責め、「どうしてもっとちゃんと確認してくれなかったの!」と、お母さんのせいにしてしまっていた。
ある月曜日、ランチョンマットを絶対に忘れないように、手に握りしめて登校した。
校門前に立って挨拶をしていた校長先生が、僕に気付いて言った。
「あれ、和田くん。ランチョンマット忘れてたの?」
「ランチョンマットなら持ってますよ」
「そうか。身軽な恰好だから、てっきり家に忘れて取りに戻ったのかと思ったよ」
(ん?どういうことだろう……あ!!)
ランチョンマットのことで頭がいっぱいだった僕はなんと、ランドセルを家に忘れてきてしまっていたのだ。
(えぇ、どういうこと!?)
その時はさすがに、自分で自分にツッコミを入れた。
毎日のように、そんなことを繰り返していた。
そういうポカをする自分が嫌で、それなのに変われなくて、たくさん悩んだ。
大人になってからも、僕の根本は変わっていない。
抜けている、と言われることは今でもよくある。
しかし、昔に比べて思い悩むことはグッと減った。
子どものころと変わったことと言えば、僕をフォローしてくれる人が周りにいること。
そしてその人たちに感謝しながら自分なりに注意を払えるようになったこと。
そして、自分の得意で大好きな分野で、誰かの役に立てる実感を味わえていること。
自分自身を信じて歩み続けた先で、僕は自分らしくいられる場所を見つけた。
もしこれを読んでいる君が自己嫌悪で苦しんでいたら、心から伝えたい。
君にもし苦手なことがあったとしても、君の素晴らしさは変わらない。
どんなに得意で溢れている人だって、一人では生きられない。
それが人間なんだ。
だったらそんな自分を受け入れ、抱きしめ、支えてくれる人に感謝しながら少しずつ前進していこう。
そしてその先で、一人で悩みを抱えていた頃は想像もしなかった素晴らしい景色を一緒に見よう。
和田賢一
