Episode 7

両親の存在

野球少年だった少年時代、試合を身近な人に見られるのがとても嫌だった。

自分の実力に自信がなくて、恥ずかしかったんだと思う。

 

選手宣誓の最中、グラウンドから遠く離れた土手でお母さんが静かに観戦している姿を見つけた。僕は視力が良かったので、すぐにお母さんだとわかった。

その時は、選手宣誓を放棄して帰ろうとすら思った。

 

「試合、観に来ないで!」

 

そう両親に言い放ったことがあった。

それ以降、お父さんもお母さんも試合に姿を見せなくなった。

後になってお母さんから聞いたが、僕の言葉に大きなショックを受けていたらしい。

 

時は流れ、高校野球の引退試合。

これまでのエピソードでも何度か触れているが、高校時代の僕はイップスとなり、大きな挫折を味わった。

イップスとは、精神的な重圧などにより、それまで無意識にできていたはずのプレーが思うようにできなくなる症状のことだ。

 

思うようにボールを投げられなくなっていた僕だが、引退試合では1球だけ投げることを許されていた。

 

試合が行われた江戸川球場にこの日、お父さんとお母さんが観に来ていた。

僕に何か言われるかもしれないのに、野球をする最後の姿を見届けに来てくれた。

そして二人は、僕がマウンドに立つ姿を写真に収めてくれた。

 

それが、高校野球時代の僕が写る唯一の写真だ。

 

―2人は間違いなく僕のお父さんとお母さんでいてくれていたんだなあ。

 

もちろん、いつだって二人は僕のお父さんお母さんでいてくれたに決まっているが、この瞬間を思い出すたびにしみじみそう思う。

 

写真を眺めるたびにイップスに苦しみ続けた当時を思い出して胸が苦しくなる。

けれど、ピッチャーとしての僕の姿を見届けに来てくれたお父さんお母さんを思うと、温かい気持ちとともに涙が込み上げてくるんだ。

 

この写真は僕にとって僕にとってお守りのような存在で、それを僕は手帳に挟んで常に持ち歩いている。


 

どれだけ一人でもがき苦しんでいる時でも、お父さんとお母さんはずっと、温かく見守ってくれていた。

子どもの頃に気付けなかったことも多いけれど、両親が注いでくれた愛情や優しいまなざしは、今も僕を照らし続けている。

和田賢一