Episode 5

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身近な場所で、環境は創れる
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整備されたグラウンドに最新のトレーニング機器、そして名コーチ。
そんな素晴らしい人や環境に恵まれて練習出来たら、どれほどしあわせなことだろう。

 

しかしビーチフラッグスの選手になりたての当時、僕は常に仕事で追われていた。
整った環境で練習するには、時間もお金も人脈も、何もかもが足りなかった。

 

練習時間不足に、僕は毎日悩み続けた。

ヒントをくれたのは、トレーナーの仕事で担当していたお客さんだった。
そのお客さんは有名音楽グループの方で、コンサートやレコーディング様々な活動で多忙だったにもかかわらず1ヶ月のうち、25日はトレーニングに来ていた。

 

―僕は果たして、この方以上に忙しいだろうか…?いや、それはない。
 ということは、優先順位と工夫次第で時間は捻出できるはずだ。
 少ない時間でも集中すれば、意味のある積み重ねになるはずだ。
ビーチフラッグスの練習をしに砂浜まで行く時間がないなら…そうだ!

思い浮かんだのは、家のすぐ近くにある公園だった。

 

その公園は砂場の面積がとても広く、スタートダッシュの練習にうってつけだったんだ。
ビーチフラッグス走距離の半分にも満たない面積だったが、ビーチフラッグスの覇者サイモン・ハリスに勝つために僕に必要なのはスタートダッシュだ。
砂のある場所でスタートの練習さえできれば、それで十分。
譲れない条件と譲れる条件は満たしている。

深夜と早朝に、毎日のようにスタートダッシュを反復練習した。

公園ではいろいろなドラマがあった。

喧嘩するカップルを意図せずして仲裁に入ることになったこともあれば、
スタートダッシュの動きが人間に見えなかったからか、猫に仲間と認識されたこともあった。

 

勢いを付けたスタートダッシュを、猫は2~3m離れたところから逃げずに見ていた。
走り終わってスタート地点に戻ると、猫は僕が人間だと気づき、一目散に逃げていくのだった。

お巡りさんに声をかけられてギョッとしたこともあった。

 

「あの…こんなところで一体、何をしているんですか?」
「夢を…追いかけています」

 

3回に渡る職務質問にも冷静に対応した。
事情を説明すると、お巡りさんは

 

「そうか、頑張ってね!」

 

と笑顔で言ってくれた。

 

様々なドラマを経ながら、反復練習が10万回を超える頃、僕はとうとう日本チャンピオンになることができた。

 

「トレーニングは整った環境でまとまった時間やらなくてはいけない」

 

そんな思いにとらわれ続けていたら、何もできないまま時間が過ぎて行ったかもしれない。
練習環境や時間が足りないときは、優先順位を考え直すこと、
そして譲れない条件と譲れる条件を明確にすること。
この2つが大事だと学んだ。

 

僕にヒントをくれたお客さんには、今でも感謝し続けている。

走りの練習をする中で、完璧な環境が揃っている人ばかりかというと、そんなことはないはずだ。
 

そういう時こそ、君自身の創意工夫を発揮し、やれることを探してみよう。

 

完全ではない環境の中で試行錯誤した経験は、必ず未来の糧になるから。

 

でも、考えても難しい時は、抱え込まずにね。そんな時は相談を待っているよ。

和田賢一